頼もしい顔が帰ってきた――サクラセブンズ 松田凜日&大竹風美子 東京五輪の無念を糧に、焦らずポジティブに。 | ラグビージャパン365

頼もしい顔が帰ってきた――サクラセブンズ 松田凜日&大竹風美子 東京五輪の無念を糧に、焦らずポジティブに。

2024/06/01

文●大友信彦


5月中旬に公開された熊谷合宿。
パリ五輪まで2ヵ月を切ったサクラセブンズに、頼もしい顔が帰ってきた。

5月に行われたワールドシリーズシンガポール大会で、昨年10月のアジア競技大会以来の実戦復帰したのが松田凜日だ。



「前の年は15人制をやっていたので、10月のアジア競技大会は久々のセブンズだったんです。ただ、そのあとで日体大に戻って練習しているときに左膝のない側靱帯をケガしてしまいました。そこから2月に復帰して、15人制の全国選手権の準決勝に出たのですが負けてしまって。そのあとはセブンズに戻ってSDS(セブンズ・デベロップメント・スコッド)合宿には出ていたのですが、ちょっとした肉離れとか地味なケガが続いて、大会には行けず、シンガポール大会でやっと戻れました」

シンガポール大会でサクラセブンズは今季最高となる6位の成績を収めた。史上初の4強入りをかけた準々決勝のフィジー戦は10-12の惜敗。「4強」が手の届くところにあることを改めて証明。今季優勝経験のあるアイルランドとの5/6位決定戦も17-19の2点差だった。
世界の強豪と互角に渡り合った戦いの中で、存在感を示したのが松田凜日だ。



フィジカルの強さ。力感溢れるランニング。懐の深いオフロードパス。今季、あと一歩で殻を破れない場面の目立ったサクラセブンズに、ほしかった「ここでもう一歩」をもたらしてくれたのがリンカだった。

「一番に考えたのは焦らないこと。何よりもケガをしないでセブンズの大会を乗り切るということを目標にしていました。無事に終えられて、パフォーマンスも出せて、良かったです」


復帰するまでの間は、体幹強化に注力していたという。父は男子15人制ワールドカップ4大会、7人制ワールドカップ1大会に出場し、東芝府中で活躍したレジェンド松田努さん。父譲りの恵まれた体躯、腕や脚の筋力が強かった分、爆発的なパワーがケガの原因になることも多かった。



「周りの筋力が強い分、体幹、インナーマッスルが弱い、もっと強化しようとドクターにもアドバイスを受けたので、体幹強化のルーティンを取り入れました。復帰してからも、下肢の負担を減らすよう、練習前のルーティンに体幹強化のメニューをしっかり入れるようにしています。体幹が強くなったと実感することはないんですが(笑)、実感できなくてもコツコツやることが大事なので、地道にやっています(笑)」


2021年の東京五輪では、一度は代表メンバーに選ばれながら直前のケガが治らず無念の離脱となった。

「オリンピックは特別という感覚はあるけれど、今はあまり深く考えず、通過点と考えています。結果としてオリンピックに出られても出られなくても、大事なのはそこに向けて頑張った過程。オリンピックを目標にして成長できたのであれば、もしも出れなかったとしても次の目標に向かって頑張れますから。もちろん、パリのオリンピックには絶対に出たいしそこで活躍したい。今はそのために努力しています」


このニュートラルなスタンスは、3年前の東京五輪代表落選という苦い経験から導かれたものだろう。19歳は一喜一憂しないことを学んだ。





「東京五輪のあとは、正直、すぐには気持ちを切り替えられませんでした。でも、このままじゃ終われないという気持ちが強かった


サクラ15でのインターナショナルデビューは2022年5月のフィジー戦だった。同年10月のワールドカップまで9テストに出場。2トライを決めた8月27日、秩父宮ナイターで行われたアイルランド戦の鮮烈なランニングは多くのファンが記憶しているだろう。

15人制では7人制よりもひとつひとつのコンタクト、ブレイクダウンで強さが求められる。その負荷に耐えながら強く速くプレーする。セブンズよりもゲームが途切れる場面が多い分、周囲とのコミュニケーション能力も鍛えられた。


「15人制にチャレンジしたことも自分を成長させたと思います。そのときもパリ五輪を見据えて決断しました」




大竹風美子

パリに向け、帰ってきたもうひとりの頼もしいサクラ戦士が大竹風美子だ。昨年12月、ワールドシリーズのドバイ大会、南アフリカ大会と続くツアー中に左足甲の靱帯を損傷。東京五輪も負傷で断念した大竹にとっては悪夢が蘇ったような感覚だったか? と思いきや、本人の受け止め方は違っていた。



「前回も直前にケガを経験していたので『今回は前ほど悪くないな』とポジティブに受け止めることができました。前回は2月で、前十字靱帯の断裂でしたから」


さすがは元祖・ポジティブリーダーだ(大竹はサクラセブンズ入りして間もない19歳の頃から、チームの中で「ポジティブリーダー」に指名され、練習中や試合前のミーティングなどで、チームを前向きな空気で包むための声かけやBGM選曲などに活躍したのだ!)。そしてそのポジティブぶりも、底抜けの明るさで突っ走っていたかつての姿よりもコクを増していた。

「これこそ私に与えられた試練だ。人生には上手くいかないこともある、そこをどう乗り越えるかが試されているんだ、と捉えて、落ち込むこともなく、しっかりケガと向き合えました」


チームを離れてリハビリに打ち込んでいる間もオンラインでミーティングに参加したり、大会やゲームのレビューを共有するなど、チームの一員という感覚を保てる機会を作った。それは「オンライン会議」のような堅い話に限らない。


「SNSで、ほんの小さいことも共有してました。チームが遠征先の空港に着いたら『着いたよ~』とか『練習にいってきま~す』『これからランチで~す』とか、チームみんなで共有していました。みんな仲良いですから。今も、ミチヨ(須田倫代)とかケガでチームを離れている選手にも同じように動画を送って共有してます」


パリ五輪まで2ヵ月。4月に発表されたオリンピックスコッドは22人。五輪代表は12人+バックアップメンバーは1人か2人と想定される。そろそろ誰が残るのか、誰が落ちるのか……シリアスな空気が漂い初めてもおかしくない時期に思えるが…サクラセブンズメンバーの様子にそんな気配は見当たらない。そこにあるのはあっけらかん、と表現したくなるような明るさだ。

「仲良いですね。もちろんオンオフの区別はしっかりしていて、やるときはやる、オフは同世代らしくしっかり楽しんでます(笑)。振り返ると、東京五輪の前は自分たちが自信を持てないままだった。今はチームとして自分たちに誇りと自信を持てている。22人のメンバーがいて、誰が出ても結果を残せる、強いチームになっているなと思います。ここから先も、誰かが代表から落ちるということじゃなく、22人のチームのままでパリ五輪まで行こうという気持ちです。もちろん私は五輪に出て活躍することを目標にしてきたし、絶対に出たいと思っているけれど、それは全員が思っていること。今ここに来られていない人、目指せなくなってしまった人もいる。その人たちの気持ちも持って、パリで結果を残したいと思っています」


大竹は5月31日から始まるワールドシリーズ最終戦スペイン大会で、来季のワールドシリーズ残留をかけたグランドファイナル昇降格プレーオフで久々のメンバー復帰を果たした。

東京五輪は日本の女子ラグビーにとって蹉跌だった。リオの屈辱を糧にして再建を目指してきたはずなのに、大会直前になっても戦術、選手選考、強化プロセスに迷走が続き、HCも交代。目指すチーム像も明確にならないまま五輪に突入した。残念だが、1勝もできず最下位に沈んだのも必然だった。

しかし、東京五輪後に「ヘッドコーチ代行」としてチームを預かった鈴木貴士・現HCは、それまでの失敗を冷静に見て学び、同じ過ちを繰り返さないようにチームを構築しているように見える。そのプロセスにより説得力を与えているのが、東京で辛い思いをした選手たちの思いであり、それがワールドシリーズ史上最高成績を塗り替えるこの2シーズンの躍進に繋がっている。

成功は約束されていない。だけど応援しがいのある、いや、応援せずにはいられないチームになっている。2024年、パリ。サクラセブンズはこれまでで最高のパフォーマンスを見せてくれるはずだ。


お知らせ! パリ五輪セブンズ応援企画 「高田馬場でセブンズに浸ろう!」開催

※RUGBYJAPAN365では、パリ五輪に挑む男女セブンズ日本代表の応援アクションを東京・高田馬場にあるラグビーバー「ノーサイドクラブ」と共同で企画しました。


パリ五輪セブンズ応援企画 「高田馬場でセブンズに浸ろう!」


いよいよ迫ったパリ五輪。悔しさを味わった東京五輪から3年、男女セブンズ日本代表の活躍を祈って、五輪の舞台で活躍した男女セブンズのレジェンドをノーサイドクラブにお招きし、セブンズの魅力、五輪の魅力、さらにフランス帰りのお2人にはフランスの魅力を伺いつつ、パリを目指す男女セブンズに応援パワーを届けましょう!


■サクラセブンズ応援ナイト(女子):6月16日(日)19時開場、19時30分開演
ゲスト:鈴木彩香さん(2016年リオ五輪、2009、2013年RWC7s、2017年RWC出場)
冨田真紀子さん(2016年リオ五輪、2013年RWC7s、2017年RWC出場、2023年フランスでプレー)


■サイモンジャパン応援ナイト(男子):6月28日(金)19時開場、19時30分から
ゲスト:坂井克行さん(2016年リオ五輪、2013、2018年RWC7s出場)
合谷和弘さん(2016年リオ&2021年東京五輪出場、2023年フランスでプレー)
■MC:ともに大友信彦(スポーツライター、RUGBYJAPAN365スーパーバイザー)
※採録を後日、ラグビー専門WEBマガジン『RUGBYJAPAN365』(会員専用ページ)にて掲載予定。

■会費:¥5,000- (1Drink付) ※お食事/追加のお飲み物/は各自ご注文でお願いします!
■会場:ノーサイドクラブ(東京都豊島区高田3-10-22 キャッスル安斎ビル2F)
■定員:40人
■ご参加申し込み方法:お名前と人数を明記の上、「nosideclub@gmail.com」までご連絡下さい。 お申込はお一人様3名様までのお申込とさせて頂きます。 複数名さまでのお申し込みの際は全ての方のお名前をお知らせ下さい。 お申込みが定員に達し次第、受付終了とさせて頂きます。 尚、両日とも前日の正午12時以降のキャンセルにつきましては 大変恐縮ですが、キャンセル料と致しまして 全額(5,000円)を頂戴する形とさせて頂きますので 予めご了承の程何卒、宜しくお願い申し上げます。

大友信彦
(おおとものぶひこ)

1962年宮城県気仙沼市生まれ。気仙沼高校から早稲田大学第二文学部卒業。1985年からフリーランスのスポーツライターとして『Sports Graphic Number』(文藝春秋)で活動。’87年からは東京中日スポーツのラグビー記事も担当し、ラグビーマガジンなどにも執筆。

プロフィールページへ


 

記事検索

バックナンバー

メールアドレス
パスワード
ページのトップへ